相続手続き

相続登記義務化って??

所有者不明土地の解消を目的として不動産登記法が改正され、以前は義務とはされていなかった相続登記が義務とされ、期限内に必ずしなければいけないことになりました。

それでは早速、不動産登記法の改正内容をみていきましょう。

法務省サイトはこちら

不動産登記法の改正内容とは  

3年以内に相続登記をしなければならない

新しい不動産登記法においては、不動産の相続人に対し「相続が開始して所有権を取得したことを知ってから3年以内に相続登記をしなければならない」と定められています。

つまり、以下の両方の事実を知った時点から3年以内に相続登記をしなければなりません。

・被相続人が死亡した事実

・自分が不動産を相続して所有者となった

したがって、不動産の所有者が亡くなった場合に、亡くなったことを知らなかったり、亡くなったことは知っていても、その方が不動産を所有していることを知らない場合には、相続登記の義務は発生しませんが、両方の事実を知っている場合には、相続登記の義務が発生します。

相続人申告登記制度の新設

改正不動産登記法では、「相続人申告登記」という制度が新しく作られました。これは、不動産を相続した人が法務局の登記官に対し「私が不動産の相続人です」と申し出て登記してもらう制度です。

上記のとおり、改正法のもとでは、不動産の所有者となったことを知ってから基本的に3年以内に相続登記しなければなりませんが、遺産分割協議が終わっていないなどの事情により、相続登記をするのが難しいケースもあるでしょう。

そこで、先に「自分が相続人です」と法務局に申請することにより、上記の義務を履行したことにしてもらえるのが、相続人申告登記制度です。

相続人申告登記の申請があると、登記官はその不動産の登記に申出人の氏名や住所などの情報を付記します。この時点では正式な相続登記ではありません。

その後、遺産分割協議などを行って相続人が確定したら、その日から3年以内に正式な相続登記(名義変更)をすれば相続人は義務を履行したことになります。

相続人申告登記の具体的な申請方法について詳細は未定ですが、相続人が単独で申請できて添付資料も簡易なものとなる見込みです。正式な相続登記よりずいぶんと負担が軽くなるので、すぐに相続登記ができないなら、相続人申告制度を利用しましょう。


相続登記しない場合のペナルティは過料10万円

相続登記が義務化された後(=改正法の施行日である令和6年4月1日以降)に、期限内に相続登記を完了しない場合、ペナルティが課されるので注意してください。

具体的には「10万円以下の過料」が課される可能性があります。過料とは、お金を取り立てられる金銭的な行政罰です。

過料は罰金や科料とは異なり犯罪ではないので、前科はつきません。ただお金をとられるだけでも十分なペナルティとなるでしょう。改正法施行後は早めに相続登記すべきといえます。

相続登記の義務を果たす具体的な方法

相続登記の義務を果たすためには、具体的にどうすればよいのでしょうか?以下の対応方法のうち、どれかを選んでください。

3年以内に相続人全員の共有登記をする

相続が発生して自分が所有者になったことを知ったら、3年以内に「法定相続人全員の名義の共有登記」をすれば、相続登記の義務を果たしたことになります。

ただし、後日遺産分割協議をして、相続人の一人の単独名義とする予定がある場合に「とりあえず」されるのであれば、この方法はあまりいい方法ではありません。

というのも、後日、遺産分割協議にもとづいて相続人の一人の単独名義とするためには、もう1回登記を行う必要があり二度手間となるうえ、名義変更に必要な税金である「登録免許税」を、最初の相続登記のときと単独名義とするための登記のときの2回支払わなければならないことになるからです。

また、法定相続人の共有名義で登記をすることは、権利関係が将来複雑化するなどの問題点があります。不動産を共有名義とする場合の問題点については、こちら

後日遺産分割協議をするのではなく、相続人全員が、上記の問題点を理解したうえで共有名義での相続登記を希望する場合にのみ、「法定相続人全員の名義の共有登記」をされるとよいでしょう。

3年以内に遺産分割協議をして相続登記する

相続が発生して自分が所有者となったことを知ったら、3年以内に遺産分割協議を行って、確定した相続人が相続登記をしましょう。これができれば、もっともコストをかけずに済みます。もっとも一般的な方法といえます。

ただ、3年以内に遺産分割協議がまとまらないケースも少なくありません。その場合には、次の相続人申告登記を利用されるとよいでしょう。

相続人申告登記をする

相続が発生して自分が相続人となったことを知っても、すぐに遺産分割協議ができないケースも少なくありません。その場合、とりあえず法務局で「相続人申告登記」をしましょう。そうすれば3年以内の相続登記申請義務を果たしたことになります。その後遺産分割協議が成立したら、その時点から3年以内に相続登記しましょう。

相続放棄する

不動産を相続したくないなら、相続放棄するのも1つの対処法となります。相続放棄したら相続人ではなくなるので、相続登記義務化の規定は適用されません。

相続放棄は、家庭裁判所に申請を行う必要があります。また、相続放棄には期限があり、相続人になったことを知ってから原則3ヶ月以内にする必要があります。

相続登記を義務化する改正法の施行日は?

相続登記を義務化する改正法はまだ施行されていないので、現時点においてはまだ、相続登記は義務ではありません。

改正法の施行日は、令和3年12月に閣議決定され、令和6年4月1日施行と決定されました。この日以降、相続登記は義務となります。

法改正施行日前の相続にも適用されるのか

相続登記は、いつの時点で発生した相続から義務化されるのでしょうか?

一般的に、法改正があると「施行後の法律関係」に対して適用される例が多数であり、法律施行前の法律関係については適用外とされるのが一般的です。

しかし、実は今回の改正法は、相続の発生が法律の施行前であるか後であるかを問わず、いずれの相続についても適用されます。つまり、改正法施行前の相続に対しても、遡って改正法が適用されるということになります。

施行前の相続に適用できないと、相続登記が行われずに放置されている現状の問題を解決できないためです。

したがって、現時点で不動産の相続人となっており名義変更をしていない方も、令和6年4月1日に法律が施行されたら、早めに相続登記しなければなりません。放置していると過料の制裁を課される可能性があります。

現在相続登記していない方に適用される期限

もしも、改正法が施行されるよりも前に既に相続が発生しているけれども不動産の相続登記をしておられない場合、いつまでに登記すればよいのでしょうか?

原則は、改正法の施行日である令和6年4月1日から3年以内、つまり令和9年4月1日までです。このときまでに相続登記をする必要があります。

ただし、改正法の施行前に発生していた全ての相続について、令和9年4月1日までに登記をしなければいけないというわけではありません。

改正法は、「相続が開始して所有権を取得したことを知ってから3年以内に相続登記をしなければならない」と定めており、3年の期限がスタートするのは、「相続のとき」ではなく、「相続の開始と所有権の取得を知ったとき」としています。

したがって、たとえば、被相続人と生前に接触がなく、相続が開始したことを知らなかった場合や、被相続人が不動産を所有していたことを知らなかったような場合には、改正法の施行前に相続が発生していたとしても、令和9年4月1日までに相続登記をする必要はなく、相続が開始して自分が不動産を取得したことを知ったときから3年以内に相続登記をすればよい、ということになります。

改正法の施行日(令和6年4月1日)以前に相続の開始及び所有権の取得を知っていた場合→期限 改正法の施行日である令和6年4月1日から3年以内(=令和9年4月1日まで)

改正法の施行日(令和6年4月1日)以後に相続の開始及び所有権の取得を知った場合→期限   相続の開始及び所有権の取得を知ったときから3年以内

不要な土地を国に譲渡できる法律の制定

今回の相続登記を義務化する法改正にあわせて、不要な土地を国に譲渡できる制度を定める「相続土地国庫帰属法」が制定されました。正式には「相続等による取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」といいます。

これによると、土地の相続人や受遺者は、その土地が不要な場合に一定の要件を満たすと、国に土地を引き取ってもらえる可能性があります。

共有不動産の場合であっても、共有者の全員が共同して行うのであれば、引き取りの申請がが可能です(相続土地国庫帰属法2条2項)。この場合には、共有者の全員が「相続により取得」した必要はなく、共有者の一人でも、相続により取得しているのであれば、全員が承認の申請をすることができます。

ただしどんな土地であっても、引き取ってもらえるというわけではありません。

まず、「相続により取得した土地」である必要があります。売買等により購入した土地は対象ではありませんし、相続により取得したとしても、建物は対象ではありません。

また、上に建物が立っている土地や、抵当権などの担保権が設定されている土地、管理や処分に過分の費用や労力を要する土地等はダメです。引き取ってもらえません。

また国に土地の引取りを求める際には審査が行われ、審査の手数料がかかりますし、10年分の土地管理費などの費用も発生します。

それでも土地を相続したくない方は、一度こちらの制度の利用を検討されるとよいでしょう。

こちらの制度を定める法律の施行日は令和5年4月27日となっており、相続登記の義務化よりも先行して制度がスタートすることになります。

相続登記をしなかったらどうなるか(放置のデメリット)

相続登記を怠っていた場合に起こりうる事態のひとつに、「いざ登記をしたいときに登記ができない」ということが考えられます。

たとえば、相続登記をしていない不動産について、「買いたい」という人が現れた場合、相続登記をしないと不動産は売れません。

しかし、このようなときに、相続人の一人が認知症になり、判断能力がなくなってしまっている場合には、家庭裁判所で成年後見人を選任する手続きをしない限り、有効な遺産分割協議ができず、相続登記ができません。

成年後見人の選任には時間がかかりますし、費用もかかります。

また、相続人の気が変わったり、相続人の仲が悪くなっていて、「遺産の取り分を増やしてもらわないと遺産分割協議書に印鑑を押さない」などと言い出すことも、ありえないことではありません。

そのほか、相続人が海外に行って連絡が取りにくくなったり、行方不明になって全く連絡がとれなくなっていることも、ないとは言えません。

以上のように、相続登記を怠っていると、「いざ登記をしたいときに登記ができない」という事になってしまう場合があります。

このほか、相続登記をしないうちに2次相続、3次相続が起こり、相続人の範囲か拡大していってしまうということも考えられます。

遺産分割協議は相続人全員でしなければいけませんので、相続人の範囲が拡大していけばいくほど、話し合いが難しくなっていってしまいます。

相続登記を放置すると、上記のようなデメリットがありますので、相続人の間で話し合いがまとまったのであれば、相続登記をしておかれることをおすすめします。